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036 Civil Engineering Consultant VOL.284 July 2019■ 原風景に溶け込む大水路長野県中部の大町から松本にいたる細長い盆地「安曇野」。雄大な北アルプスの高峰に囲まれたのどかな田園地帯は、今や日本の原風景と称されている。この美しい風景に溶け込むように、松本市島内の奈良井川から安曇野市穂高の烏川までの約15kmに及ぶ南から北へ流れる農業用水路が「拾じっケか堰せぎ」である。水路勾配は0.03%と非常に緩く、一見地形に逆らって流れているように錯覚するほどだ。本来「堰」とは文字の通り「流水をせき上げ、その上を越流させる仕切り」という意味があるが、安曇野では農業用水路そのものに「堰」の字を用いて、「せぎ」と呼ぶ。安曇野には数多くの用水路が網目のように縦横に張りめぐらされており、中でも拾ケ堰は最大の規模を持つ。拾ケ堰はその規模を持ちながら、大河川の梓川ではなく、梓川の東を流れる奈良井川から取水している。そのため、梓川を横断させるという難しい技術が必要となる。なぜ、奈良井川からの取水とする必要があったのだろうか。■ 不毛の地安曇野現在では長野県きっての米どころと言われ、青々とした水田が広がる安曇野だが、昔は水が少なく、荒涼とした原野が一面に広がっていた。その理由は山麓に続いている扇状地の地形にあった。扇状地は砂礫によって構成されているため、河川の水は下流に行くにつれ地下に浸透し、途中で水無川となってしまう。上流では水量豊かな川でも安曇野へ出ると流れはまばらになり、小石だらけの広い河原となる。加えて、安曇野はいくつもの川が形成した複合扇状地となっている。深い渓流となって北アルプスの岩石や土砂を運んできた急流は、平地に出ると流速を落とし、礫の多い土砂が扇状に堆積する。それぞれの川の扇頂部とそれらの川が一カ所に集結する扇端部の沼地は水が豊富であったが、広大な面積を占める扇央部には水がなかったのである。株式会社片平新日本技研/技術管理部田中 知実/ TANAKA Tomomi(会誌編集専門委員)拾ケ堰第78 回安曇野を潤す大水路「拾ケ堰」長野県松本市/安曇野市