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006 Civil Engineering Consultant VOL.284 July 2019日本にはいくつ祭りがあるのだろうか? よく聞かれる質問だが、この問いには答えることができない。ときどきン十万といった説明がされるのを聞くことがあるが、これは社寺の数などから類推して算出しただけで、実際の祭りの数をカウントしたわけではない。そもそも、何を以て祭りとするのかというのも難しいところだ。例えば神社であれば、毎月一日と十五日は「月つき次なみ祭さい」という祭りをやっていたりする。秋には「新にい嘗なめ祭さい」をやるし、正月には「歳さい旦たん祭さい」と、年中行事を数えたらきりがない。祭りといえば、お神輿や縁日を思い浮かべるかもしれないが、神職が祝のりと詞を唱えるだけの祭りまで含めたら、その数は膨大になる。さらに、市民祭りや産業祭りなど、宗教が関与しない祭りもたくさんあるのだ。しかしそんなことを言っていたのでは、祭りの話が始まらない。そこで、数はさておき、神さまとの関係から祭りを考えてみることにしたい。日本の神さまというのは、これまたたくさんいらっしゃる。「八やおよろず百万の神」というくらいである。『古事記』『日本書紀』などの日本神話には、天あまてらすおおかみ照大神をはじめとして数多くの神名が登場しており、現在の神社では基本的にそうした神さまを御祭神として祀っている。けれども、それが日本人の考えてきた神さますべてではない。民俗学的にみていくと、もっと雑多な神さまが、あるいはもっとローカルな神さまがたくさん存在しているのである。ここでは、神さまを大きく3つのタイプに分けて祭りとの関係性を捉えてみることにしたい。祖霊神の祭りまずは「祖霊神」である。祖霊神とは、祖霊すなわちご先祖さまが神さまになるということ。そしてその神さまは、どこか遠い場所ではなく、人々が暮らす地域の近くにある山におわすというのだ。人は亡くなるとホトケになる。亡くなって一周忌、三回忌、七回忌といわゆる年忌供養をおこなっていくわけだが、33年とか50 年あたりを過ぎると、もうご先祖さまの仲間入りをさせようということになる。判りやすいところでは、仏壇にある位牌を、パーソナルなものから、先祖の位牌にまとめてしまうのである。お墓に行けば、通常墓石の後ろに「卒そ 塔とう婆ば 」と呼ばれる細長い板が立てられているが、これを「うれつき塔婆」という生木の卒塔婆にするのもこのときである。こうしたご先祖さまの仲間入りをさせることを、「弔とむらいあげ」と称した。この祖霊神は、さきほど述べたように子孫が暮らす地域に近い山にいるのだと考えられた。今でいう里山のようなところだろう。なにも「祖霊神でござい」といるわけではないが、様々な言い伝えや風習を調べてみると、どうもそういうことが言えそうなのである。そして、里で暮らす人々は、春になると稲作の準備を始める。特に重要なのは田植えだ。その際に山から神さまをお招きして、田の神として稲作の面倒をみてもらうことになるのだ。だから3~6月のころの年中行事には、実は田の神を招くための準備という行事が多い。例えば3月3日のひなまつり。これは、本来は人形にその人の穢けがれを移して、川や海に流し去るという行事であった。なぜ穢れを流さなければならないのかというと、田の神を迎えるために1 神さまからみた日本の祭り久保田 裕道KUBOTA Hiromichi特 集祭り ?非日常と祈りの文化?独立行政法人国立文化財機構/ 東京文化財研究所無形文化遺産部/無形民俗文化財研究室長日本には数えきれないほどの祭りが存在する。なぜこんなに祭りがあるのだろう。「祭り」は「祀る」という言葉に語源があり、神さまを迎えて供物をささげ、人々の幸福を祈るための行事であった。神さまを切り口に、祭りと日本文化について考える。