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Consultant285
Civil Engineering Consultant VOL.285 October 2019 025せ、一般米より買取り価格が高い酒米を地域で栽培し、地域に活力を取り戻したいという政策が掲げられていた。相談は「国からの補助金を獲得して自家醸造を再開する手助けをしてもらえないか」というものであった。事業主体は瀬戸酒造店経営者の瀬戸氏であり、我々の役割は補助金獲得のための提案書づくりだった。日本酒の市場動向や再生の規模、必要な設備などを調査し、提案書を作成した。しかし、応募の直前に瀬戸氏から中止を求められた。事業計画段階では確実な販路も造り手となる杜氏も決まっておらず、事業費の半分が補助されても、事業継続が困難だということが理由だった。補助金申請は中止となったが、思わず瀬戸氏に「わが社が事業主体となって酒蔵を再生することは可能ですか?」と質問していた。それは、これまでの調査で開成町の地域活性化としての酒蔵再生の意義、日本酒業界の可能性、首都圏からみた立地の優位性、なにより開成町の田園風景や水の美しさに私自身が魅力を感じていたためである。その問いには「土地も貸すし建物も好きにしてよい。できることがあれば協力する」との答えが返ってきた。こうして、開成町北部地域活性化事業の芽が生まれた。芽はでたものの、誰が見てもリスクが大きい事業であり、簡単に承認を得られるわけはなかった。そもそも建設コンサルタントが日本酒を醸造するなど聞いたこともないし、私自身が下戸だったため、社内での反応は「何を考えているのか」「暇なのか」と冷ややかであった。しかし経営陣は「オリエンタルコンサルタンツとしてどこまでできるか、とことん調べて結論を出すことに意義がある」と判断し、わが社の酒蔵再生事業の計画づくりが始まった。事業計画づくりと事業承認まずは、酒造業の全体を俯瞰して捉えるために、東京農業大学醸造科学科の穂坂賢教授を訪ねた。教授からは日本酒を取り巻く国内、海外の市場動向についてご教示いただき、さらには瀬戸酒造店の現場を見て、醸造を再開する上での課題を指摘いただいた。穂坂教授は私がコンサルタントであることから、どこからか委託を受けて調査していると思われていたが、事業主体として酒蔵を再生しようとしていることを知ると、「酒造業に実績がないならやめた方がよい」と助言された。一方で、日本酒が世界に認められ、海外市場が拡大していることや、倒産しかけた酒蔵が突然、国内外で大ヒットするような事例があることを挙げ、「極めて困難だが不可能ではない」と語られた。また「成功するためにはストーリーが重要だ」と述べられ、「本気で事業を始めるなら協力する」と約束いただいた。自家醸造再開のストーリーとして考えていたのは、古い酒蔵に居付いていた酵母の復活と、開成町の町花で写真2 稲穂(酒造好適米 吟のさと)写真3 釜場写真4 麹室写真5 醸造タンク