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Consultant285

026 Civil Engineering Consultant VOL.285 October 2019あり毎年20万人の来場者がある「あじさい祭り」にちなんだ、あじさいの花酵母による酒造りであった。採取した酵母が、日本酒を醸してくれる酵母かどうかは試験醸造をしてみないとわからないため、穂坂教授に試験醸造を依頼した。次に、自家醸造に必要な設備計画に着手した。醸造施設設計の経験がある技術者は社内にいなかったため、醸造機器メーカーを訪ね、必要な設備についてヒアリングを行った。その際に醸造施設設計の経験がある建築士を紹介してもらい、基本設計を依頼し建設費を算出した。さらに、日本酒造りに必要な材料原価、人件費、施設の減価償却、販管費を考慮して、収支のシミュレーションを行った。製造石高、販売価格、商品構成など、パラメーターが多く、何度もシミュレーションを繰り返して、詳細な事業計画ができた。同時に、開成町から近隣の古民家「あしがり郷 瀬戸屋敷」の指定管理者が公募され、瀬戸酒造店の再生と発酵による地域ブランドづくりを提案し、我々が選定された。これをもって、事業計画着手から1年半の期間を経て、開成町の地域活性化事業として、酒蔵再生の事業計画が承認された。事業開始瀬戸酒造店をオリエンタルコンサルタンツの100%子会社とし、私が代表取締役に就任、計画当初から部下であった一人と新入社員一人の三人で事業をスタートした。既存の醸造所を解体し、新築工事を発注したが、最大の問題は杜氏が決まっていないことだった。全国に杜氏組合が存在し、酒蔵に杜氏をあっせんしていると聞き、問い合わせたが、全て断られてしまった。理由は、実績がない酒蔵だということと四季醸造ということだった。一般的に日本酒は冬季しか仕込まないため、杜氏達は冬季に出稼ぎに出て、夏季は家に帰るという習慣がある。建築面積をコンパクトにして空調設備で温度管理を行うことで一年中、日本酒を仕込む計画としたことが杜氏候補を限定してしまっていた。このまま見つからなければ、穂坂教授に手ほどきを受けて、自分で仕込むしかないかと思っていた矢先、求人募集に応募があった。それが小林幸雄杜氏であった。経験豊富な小林杜氏が、全国でたった一人、酒蔵再生による地域活性化に賛同してくれたことで、歯車が一気に回り始めた。穂坂教授のもとで試験醸造していた「蔵付酵母」はどっしりとした酒質、「あじさい花酵母」はフルーティな酸味のある酒質の日本酒を醸せる酵母だということがわかった。いよいよ再始動する瀬戸酒造店の銘柄を決める段階に入った。デザイン会社と打合せを重ね、「蔵付酵母」は瀬戸酒造店の歴史を継承する伝統の酒として従来の銘柄『酒田錦』に、「あじさい花酵母」は地域を象徴する『あしがり郷』という銘柄にした。さらに、新しい瀬戸酒造店のメイン銘柄として、飲むシーンに合わせてBGMを選ぶように楽しくセレクトできる『セトイチ』を立ち上げた。「セトイチ」は、小林杜氏がこれまで経験した中で自信を持った酵母と、仕込み技術を駆使したシリーズで、純米大吟醸が1種、純米吟醸が7種、特別純米が1種の計9種あり、それぞれ個性的な名前がついている。こうして「酒田錦」「あしがり郷」「セトイチ」という銘柄が決まり、2018年3月から自家醸造を開始し、同年6月より販売を開始した。写真6 瀬戸屋敷主屋写真7 瀬戸屋敷カフェ