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Civil Engineering Consultant VOL.287 April 2020 013学の解剖医で、学長と王室侍医を務めたウイリアム・ハーベーと推測されます。ハーベーは大のコーヒー狂で、自身の痛風の痛みをコーヒーをがぶ飲みして癒したそうです。特に強調してビラに書かれているのは「浮腫病、痛風、壊血病に効く」という1行です。コーヒーの魅力といえば、飲めば直ぐ自覚できる効き目です。それには3つあって、どれもカフェインの作用です。1つは利尿作用、次は覚醒作用(眠気覚まし)、もう1つは高揚感です。カフェインの作用は誰にでも現われるので、一度コーヒーを飲めばまた飲みたくなってしまいます。酒場に入り浸っていた人も、アルコールの毒を消してくれるコーヒーの魅力に取りつかれました。実際に17世紀中頃のロンドン市内では、それまで軒を連ねていた酒場がコーヒーハウスに模様替えしたそうです。ところでハーベーがコーヒーハウスのビラに書いた「浮腫病、痛風、壊血病」の3つを予防するという成分はカフェインだけではなさそうです。コーヒーにはカフェイン以外にも多くの成分が入っているので、効き目を説明することは易しくありませんが、薬理学者の好奇心をくすぐる謎解き、これもまたコーヒーの魅力になっているのです。コーヒー豆は焙煎で変わるイスラム教社会でコーヒーの人気が高まったとはいえ、最初は生豆を煮出して飲んでいました。眠気が消えて気分が高まるモスクの秘薬として、また胃の薬として珍重されました。しかし、生豆の味は毎日飲み続けるには魅力に欠けるので、カフェインが入っていなければ見捨てられていたでしょう。そんな状況が一変したのは12世紀頃のことで、豆を真っ黒になるまで焼きあげる焙煎法の発明でした。コーヒー豆を焙煎すれば色と香りが変わります。飲めば味の変化に驚きます。色と香りの変化は化学成分の変化を表しているのに、その効き目の変化については専門家も曖昧です。ここで浅煎りと深煎りの主な成分を比べてみましょう(図3)。コーヒーの主成分は3つあります。カフェイン、クロロゲン酸、トリゴネリンです。深く焙煎してもカフェインの成分はほとんど変りません。普通のコーヒー1杯には薬のカフェイン1錠と同じ100mgが入っていますから、普通の人なら眠れなくなるし、尿意を感じます。2つ目はコーヒーポリフェノールとも言われるクロロゲン酸です。これは焙煎の熱で分解して、深く煎ればなくなってしまいます。ですからポリフェノールが活性酸素を消す作用は浅煎豆の方が強いのです。3つ目のトリゴネリンも熱に弱く、一部が焙煎中にニコチン酸に変わります。ニコチン酸はビタミンB3の1つで深煎豆10g(1杯分)に3~5mg が入っています。1日3杯飲めば必要量の半分以上を満たします。ニコチン酸は体内でNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)に変わって、エネルギーを生み出すとともに、老化関連疾患を予防する作用が期待されているのです。以上をまとめますと、身体によいコーヒー成分とは、焙煎してもしなくても同じように含まれているカフェインと、浅煎り豆だけにあるポリフェノールのクロロゲン酸と、深煎り豆だけのニコチン酸の3つです。他にも成分は沢山ありますが、病気を予防して元気に過ごすためには、これら3つを同時に摂ることが効果的と考えられます。ならば、誰もが先ず思うのは「中煎りにすればよい」ということでしょう。しかし実際にやってみますとカフェイン以外は少な目で目的には叶いません。浅煎りと深煎りをブレンドする以外にはありません。筆者はこれを「栄養成分ブレンド」と呼んでいたのですが、NHK番組に出演したときディレクターが「希太郎ブレンド」と名づけたのです。「希太郎ブレンド」の味はどうでしょうか? 飲んだ人の感想では「マイルドで飲みやすい」とのことです。少なくとも大衆薬は、飲みやすくなければ毎日続けることはできません。マイルドで飲みやすい味は、コーヒーが大勢の人に受け入れて貰う最初の条件を満たしています。では、肝心の効き目について説明します。コーヒー疫学研究でわかったことコーヒーは発がん物質との疑いから、20 世紀の半ばに疫学研究が始まりました。10万人規模の集団を10 年以上追跡するという研究方法は、地味で時間のかかる図3 浅煎り豆と深煎り豆の成分の違い浅煎り豆深煎り豆カフェインカフェインクロロゲン酸ほぼ消滅トリゴネリンニコチン酸