ブックタイトルConsultant287

ページ
18/86

このページは Consultant287 の電子ブックに掲載されている18ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

Consultant287

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

Consultant287

016 Civil Engineering Consultant VOL.287 April 2020カフェに集まった知識人ヨーロッパの近代文化史の中で、カフェはどれほど重要な役割を果たしてきたことだろう。17~18 世紀、イギリスの発展を支えた貿易業に携わる者たちは最新の情報を得るためにロンドン中心部のコーヒーハウスに集い、そこから新聞や保険会社が誕生した。1686 年にパリに誕生したカフェ、プロコープはフランス人にコーヒーを飲ませることに成功しただけでなく、大理石のテーブルや、壁に取り付けられた多くの鏡、シャンデリアなどを使うことで豪華なパリのカフェの原型を築いた店である。この店には啓蒙思想の哲学者たちやフランス革命の中心的な人物も集っていた。フランス革命に対する議論の多くはパリのパレ・ロワイヤルのカフェやプロコープでなされ、文字の読めない人が多かった時代、新聞や最新ニュースを読み上げるヌーベリストの声に多くの客たちが聞き入った。1720 年にヴェネチアに誕生したカフェ、フローリアンには美しい装飾の小さな部屋からサン・マルコ広場のテラスに至るまで、数多くの芸術家が集い、ここからも新聞が誕生した。フローリアンにはヴェネチア市民だけでなく、カサノヴァ、ジャン・ジャック・ルソー、絵画評論家のジョン・ラスキン、フランスの女流作家ジョルジュ・サンドなども姿を見せていた。ゲーテはローマのカフェ・グレコを愛し、彼に影響され、イタリアを訪れたドイツ人画家たちは夕方になるとこぞってこの店にやって来た。19 世紀末には分離派の芸術家たちや若い作家たちがウィーンのカフェに集い、そこから芸術運動が生まれていった。20世紀初頭のパリ、モンマルトルやモンパルナスのカフェに集った世界的な画家や作家、音楽家は数知れず、マネ、モネ、ルノワール、ピカソ、モディリアーニはじめ、カフェに集った画家たちの名前を覚えれば20世紀前半の美術史の大半が理解できるほどである。その後パリのサン=ジェルマン・デプレのカフェ・ド・フロールに集ったサルトルやボーヴォワールなど、実存主義者といわれる哲学者たちは世界の若者に影響を与えていった。3 ヨーロッパのカフェ文化飯田 美樹IIDA Miki特 集コーヒー/カフェ/まちカフェ文化・インフォーマル・パブリック・ライフ研究家東京大学特任助教ヨーロッパのカフェには、近代から現代まで変わらず人々を集わせる魅力がある。カフェは誰にでも開かれた空間であり、何かが生まれる「場」であった。ヨーロッパのカフェが社会の中で果たしてきた役割を探ってゆく。写真1 ヴェネチアのカフェ「フローリアン」のテラスとサン・マルコ寺院