ブックタイトルConsultant287
- ページ
- 19/86
このページは Consultant287 の電子ブックに掲載されている19ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは Consultant287 の電子ブックに掲載されている19ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
Consultant287
Civil Engineering Consultant VOL.287 April 2020 017客たちの自由な中立的な空間では何故彼らはカフェという場に集ったのだろうか。第一に、カフェは街中に存在し、誰にでも開かれた、長時間滞在することのできる格好の居場所だったからである。自分の家は狭く、冷暖房設備も整っていない中、カフェを訪れれば暖房もあればまともな椅子や机もあり、彼らはそこで何時間も過ごすことが可能であった。第二に、彼らはメニューに書かれていないものを求めてカフェに通ったといえる。過去から現在に至るまで、社会の中で与えられた役割や仕事に満足し、特に疑問をもたない者はあえてカフェに行く必要はなく、彼らはそれをお金の無駄だと感じている。だが、カフェに通う者たちは、お金がなくても生きるためにカフェに通う必要があると考えている、少し変わった者だった。カフェに集い、歴史を変えていった者たちは、はじめから偉大な人物だったわけではなく、大抵の場合は既存の社会、大勢に馴染めず疑問を感じている若者だった。多くの者は大人になるにつれて社会が要請する価値観と折り合いをつけ、それなりに順応して生きていくが、カフェに集った者の多くは、自分の生き方を曲げきれない者だった。カフェという場は社会の中でも例外的に、社会の要請するコードから免れた独特の空間である。カフェという空間では、ここではこう振る舞うべきというコードは一杯の飲み物を注文すること以外には存在しない。カフェにおける飲み物代とはその空間への入場料であり、他の客に迷惑をかけない限り、そこで何をしていようが客たちの自由という中立的な空間である。新たな知を育むカフェ歴史に名を残したようなカフェには、一風変わった者たちでも受け入れてくれる懐の深さと、彼らを一人の人間として受け入れてくれるあたたかさがあった。社会の中では変わり者として扱われ、葛藤を抱えた彼らは、カフェに行けば尊厳ある一人の客として扱ってもらえた。いつの時代も、社会の中で違和感を抱えた者は、自分を完全に曲げるより、自分の考えを認めてくれる人たちと出会いたいと希求しているものである。歴史に名を残したカフェは、逸脱者たちをあたたかく受け入れてくれただけでなく、彼らと似た価値観を持つ者たちの出会いの場として機能していた。そこで彼らは志を同じくした仲間に出会い、帰ろうとした頃にまた誰かと出会い、次々とやってくる出会いの波に押され、いつまでたってもその店を出ることができなかったのだ。こうしてカフェは居心地のよい「第二の我が家」となってゆく。カフェに行けば新聞にも書かれていない最新の情報や、まだ本に書かれていないアイデア、作品になっていないアイデアが、飛び交っていた。新しい時代を模索し、探求している者たちが出会い、彼らがお互いに刺激し合うことで、また新しいアイデアや共有知が誕生する。イギリスのコーヒーハウスは「1ペニー大学」と呼ば写真2 ヴェネチアのカフェ「フローリアン」の店内写真3 パリの歴史的カフェ「プロコープ」の店内写真4 ウィーンの芸術家が集った「カフェ・ツェントラル」