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Civil Engineering Consultant VOL.287 April 2020 019子供達のはしゃぎ声、鳩が一斉に飛び立つ音。あたりで飛び交う外国語、気づけば生演奏すら聞こえてくる。そこには人の幸せの姿が凝縮されているようである。イタリアではいきつけのバールでエスプレッソをさっと立ち飲みする習慣があるが、ゆっくりしたい時にはカフェのテラスに座っていられる。パリのカフェにもカウンターがあり、エスプレッソを立ち飲みしたり、朝食を立ち食いできる。一方でゆっくりしたい時には街ゆく人を眺めながらのんびりテラスに腰掛けるというように、同じカフェ内での空間の使い分けが可能である。メニューもコーヒーだけでなく、アルコールやジュース、朝食からメインまで食べられるため、客にとって使い勝手がよい。1つの空間で様々なニーズに対応できるため、赤ちゃん連れから常連のおじいさんまで、多くの人を対象としており、日本のファミレスに近い使いやすさといえるだろう。現在では北欧のコペンハーゲンでもこうしたオープンカフェが山ほどある。吹きすさぶ寒さで知られるコペンハーゲンは、1960年代にオープンカフェを導入する以前は「誰もそんなところでカプチーノを飲むわけがない」と言われていたが、現在は一年中営業しているという。それは、店側がひさしの内側にヒーターを取り付け、テーブルの横に美しいデザインの薪を使った暖房を設置するなど、テラスの環境を改善するアイデアに事欠かないからである。世界のパブリック・ライフ改善に貢献したヤン・ゲール氏にインタヴューしたところ、テラスを設置した店はそうでない時に比べ、売り上げが5倍伸びるという。それは街ゆく人が、客たちの姿を目の前に見ながら、ここでは何を食べれるのかをチェックでき、日当たりなどを確認し自分で主体的に席が選べるからである。それに対して扉の閉ざされたカフェに初めて入るのにはかなりの勇気が必要だ。店内はどんな空間なのか、メニューは具体的にどんなものか、雰囲気を想像することはオープンカフェに比べて格段に難しく、結果として彼らは失敗をさけるためにその店をスルーしてしまう。オープンカフェという場があることで人々を歓迎するテラス、あたたかいスタッフがおり、客たちを快く受け入れてくれるカフェがあり、そこで客同士の出会いが起こっていけば、カフェはただ飲み物を飲み、休息するための場から、何かが生まれる場へと変化してゆく。ヨーロッパにおいてカフェは人々の喉の渇きを潤すだけでなく、逸脱者たちの避難所として、そして創造の場として機能してきた。既存の社会に違和感を抱えている者のためにも、まちの活気を生み出すためにも、カフェは非常に重要な場として機能する。オープンカフェが世界に比べて圧倒的に少ない日本だが、実は社会的圧力の強いこの国にこそ、こうした場が求められているのではないだろうか。写真7 イタリア、ヴェローナのオープンカフェやテラス席のあるレストラン写真8  街の様子を眺めていられるパリのオープンカフェ写真9  コペンハーゲンのカフェのひさしに設置された暖房