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Consultant287
040 Civil Engineering Consultant VOL.287 April 2020あったため、築造当時の記録写真や公式の工事記録、設計図面はほとんど残されておらず、呉市上下水道局が海軍作成図面を写図したと推察される図面を数枚保管しているのみである。日本水道史においても「其大きさ容量等は軍機に属し公告の自由を有せず」と記載されている。そのため、設計段階で井上や飛山がなぜ石張りの重力式コンクリート造りを選定したかは、残念ながら不明である。堰堤の右岸側天端付近から全体を見渡すと、重力式にもかかわらず、堤体の一部が緩やかな曲線を描いていることがわかる。天端付近から見渡すと堂々たる姿の中に、柔らかい一面を感じることができる。長さが97mある天端の上流側には、石積みの壁高欄が設置されている。よく見ると均一な大きさの石材が縁取りされており、意匠に対するこだわりと石材加工技術の高さを感じることができる。この装飾された石積みによって壁高欄全体が変化に富んだ印象となっている。また天端の下流側は鋼管製の柵のみとなっており、このおかげで天端部からの眺望の素晴らしさと、足元の開放感や恐怖感の両方を楽しむことができる。天端の中央付近には取水塔がある。庇がある広い屋根が特徴的なこの取水塔も石造りとなっており、石張りの堰堤とよく調和している。取水塔の上屋内には、築造当時の取水バルブが5基残っており、これには“KureNavy WaterWorks”を示す「KN.W.W.」が刻まれている。一方、下流側の真正面から堰堤を眺めると、重厚感や迫力のある印象となる。下流側の堰堤の顔として3つの特徴的な意匠がある。一つ目は御影石で形成された布積みの堤体である。布積みは、ある程度高さが揃った石材を使い横の目地を通し、縦は目地が鉛直に繋がらないよう、「エの字」にずらして積んでいる。積み方が良くないとズレやクラックが生じるが、ここでは全く見受けられないことから、呉鎮守府の土木技術の高さが伺える。二つ目は12m間隔で垂直に伸びる5本の縦帯である。これは、コンクリートのひび割れを防止するための横継目の位置と同じ場所に設置されている。これにより、貯水池からの漏水や雨水が滲み出ることを防止している。築造から100年以上経過しているにも関わらず、堰堤面にはこの滲みや遊離石灰などの物質が、表面に白い粉として現れるエフロレッセンス現象は見られない。この縦帯には、堰堤の構造を守ることと美しさを生むことが両立しており、現在もその役割を果たしている。写真1 天端の緩やかな曲線写真3 庇のある取水塔写真4 取水バルブの刻印写真5 石材が均一な布積み写真2 天端の壁高欄