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Consultant287
Civil Engineering Consultant VOL.287 April 2020 041そして三つ目が堰堤頂部の処理である。頂部は、一番上の高欄部分を下の部分より前に出す積み方となっている。これは堰堤上部の雨水による汚れを防ぎ、石材の美しさを保つためである。日本に存在する堰堤やダムにおいても前出しした処理方法は見受けられるが、本庄水源地堰堤は、群を抜いて装飾にこだわりを感じる。石材を少しずつ前にずらし、形状や色彩、構造を巧みに変化させて、布積みや縦帯とよく調和がとれている。他にも堤体の脇に設置されている二河川のカスケード(落差工)、導水路、階段など多くの施設がある。これらにも、堰堤と同様に呉鎮守府の高度な土木技術が生み出した壮麗な装飾が見受けられる。本庄水源地堰堤にかける土木技術者の想いや意図が分かる資料を見つけ出すことはできなかったが、堰堤が本来持つ重厚さと、構造的にも景観的にも意味のある意匠には圧倒された。複雑かつ繊細な装飾を違和感なく設計する緻密性と、それを実現する高度な施工を世界に誇示するために、ここまで華美な堰堤が築造されたのではないだろうか。■ 「花よりダム」を楽しむ本庄水源地堰堤は旧海軍用の施設であったが、竣工当時から呉市民の生活を支え、築造から100 年以上を経た現在も、現役の水道施設として稼働し続けるとともに、桜の時期には一般開放され、市民にとって桜を楽しむ名所として利用されている。1999(平成11)年、稼働している水道施設としては全国初の国の重要文化財(堰堤、丸井戸、第一量水井、階段、水道用地)に指定され、2005(平成17)年にはダム湖百選にも選定されている。軍用施設という特性から資料がほとんど残されておらず、本庄水源地堰堤の意匠については不明な部分が多く設計に携わった人々の意図や想いは想像に委ねるほかない。しかし施された高い意匠性からは、急ピッチで築造が求められる中、設計者をはじめ多くの人が堰堤に込めた熱意と工夫が迫って感じられる。ぜひ桜の時期がきたら、本庄水源地堰堤で「花よりダム」を楽しんでみてはどうだろうか。<参考資料>1)『近代土木遺産「本庄水源地」の設置経緯に関する研究』土木学会第58 回年次学術講演会 Ⅳ -330 2003年2)『日本水道史 中島工学博士記念』中島工学博士記念事業会 1927年3)『呉の水道100年』呉市上下水道局 2018年4) シリーズ・ニッポン再発見⑩『日本のダム美―近代化を支えた石積み堰堤』川崎秀明2018年 ミネルヴァ書房<取材協力・資料提供>1) 呉市上下水道局<図・写真提供>図1、写真8 呉市上下水道局 P38上、写真2、6 塚本敏行写真3、4、5 細谷州次郎 写真1、7 徳武広太郎写真6 5 本の縦帯写真8 桜と堰堤写真7 堰堤頂部の前出し