土木施設の転用
建築ではコンバージョンと呼ばれる、既存建物の骨格を残した用途転用が良く行われます。
一方土木施設は、構造物の規模が大きいことや、
ある特定の目的・機能で設計されることから転用事例は多くありません。
そのため役割を終えた土木施設は、撤去されることが通例となっていました。
しかし近年では、河川や公園に関する法改正に伴い、
土木施設そのもの、またはその周辺空間を活用したイベント等が行われています。
またダムそのものが観光の対象となる等、まちづくりの中で活用されている例もあります。
このように、土木施設の価値が変容している現在において、
今後も積極的に利活用または用途を変更する事例は増加していくと思われます。
このような背景をもとに本特集では、まだ事例の少ない「土木施設の転用」に着目します。
良く見られる事例は、橋梁分野において部材の一部を転用したり、
道路橋から人道橋に転用したりするものです。
しかし本特集では、往時の形状や空間の痕跡が少なからず残っているだけでなく、
積極的に地域のまちづくりへの活用がなされている事例を取り上げることとしました。
前半の3編は運河、鉄道、トンネルと延長が長い土木施設の転用事例であり、
現在ではまちの資源を繋げるネットワークとして機能しています。
そのため、転用時における行政や地域住民、民間事業者といった
様々なまちづくりの担い手との合意形成の過程や、
施設がどのようにまちへ貢献しているかといったことが参考となるでしょう。
後半の3編は配水塔、橋梁、防空壕と、地域の拠点施設とみなせるものです。
つまり前半の3編に比べれば建築に近い規模の土木施設であり、
いったん機能が失われれば、これまでのように撤去されやすい施設です。
しかしなぜ、用途を変更し、転用されたのでしょう。
その理由は様々ですが、どの施設にも共通して、
市民の愛着が時代を超えて蓄積されていると言えます。
このような種別・規模の異なる6編の事例を通じて、
土木施設の転用・利活用の可能性が広がっていくことや、
土木施設を抱える各地でオリジナリティあるまちづくりが進展することを期待します。
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