「景観(けいかん)デザイン」ってどんな仕事?

建設コンサルタントという仕事

 「景観(けいかん)デザイン」ってどんな仕事?

 

はじめまして。建設コンサルタントの会社で、橋の「景観デザイン」の仕事をしている太田泰弘です。橋の「景観」を「デザイン」するってどういうことか、わかりにくいかもしれませんね。わたしの仕事の内容をお話しする前に、まず「建設コンサルタント」についてかんたんに説明しましょう。

国や都道府県などは、人々が安全で便利にくらすために何が必要かを考えて、さまざまな施設(しせつ)や設備(せつび)をつくる計画を立てます。そして実さいにつくると決まったら、設計(せっけい)を受け持つ会社と工事をする会社へ、それぞれ別々に仕事をたのみます。わたしたち建設コンサルタントは、設計のほうを担当(たんとう)する会社です。

何かを設計する仕事というのは、設計図をかくだけではありません。きちんとした設計ができるように、その場所をじっくり調べ、問題点に気づいたら、解決(かいけつ)する方法を探すことも大事です。工事をする人たちがスムーズに作業できるように、作業の順番なども考えます。古くなった施設の点検(てんけん)をしたり、施設の安全を守る仕事などもあります。

このようにわたしたちが担当する「設計」の中には、さまざまな種類の仕事がふくまれていて、どれも専門的な知識(ちしき)や技術(ぎじゅつ)が必要なものばかり。建設コンサルタントというのは、いろんな分野の専門家たちが集まっている会社なんです。

太田さんは橋の専門家なんですよね。

ほかにどんな専門家の人たちがいるのか教えてください!

 

たとえば、どこかの川に橋をかけるとしましょう。その地面が橋の土台をしっかり支える強さがあるかどうか、深いあなをほって地中を調べる人や、橋の両側にある川岸がくずれたりしないように、補強(ほきょう)する方法を考える人、橋に使うコンクリートや鉄鋼(てっこう)はどれぐらい必要か、費用や工事の日数はどれぐらいかかるか、そういったことを割り出す人もいます。

わたしが担当している「景観デザイン」も、そんな専門技術のひとつなんです。

橋の設計図の一部
橋の設計図の一部

橋の「景観デザイン」は、その橋が周囲の環境(かんきょう)や景色に調和していて、利用する人が使いやすいような「形」を考えることです。
橋ができて川の向こう側に行くのは便利になったけど、色や形が周囲の景色にふさわしくなかったり、おとしよりや体の不自由な人が通りにくい橋ではいけませんよね。
そういうことを総合的(そうごうてき)に考えて橋の形を決め、設計図にかくのがわたしの仕事です。

 

「デザイン」っていうと、おしゃれでかっこいい形を考えるのかなって思ったけど、そういうのだけがデザインじゃないんだね。でも、景色の一部として、その場所に自然にとけこむような形で、しかもだれでも使いやすい形を考えるのは、すごくむずかしそう。
太田さんが実さいにどんなふうに仕事を進めていくのか、教えてください。

 
「竜閑さくら橋」東京駅側
「竜閑さくら橋」東京駅側

東京都の中央区と千代田区にまたがる「竜閑(りゅうかん)さくら橋」は、わたしが景観デザインを手がけました。
この橋がどんなふうにつくられたかを見ていくと、わたしの仕事の内容もよくわかりますよ。

 

① 設計の仕事の依頼(いらい)を受ける

都市の整備(せいび)などを行う都市再生機構(としさいせいきこう)が、千代田区のある地域(ちいき)を新しく整備し直すことにしました。
そこは、川があるために、道が行き止まりになっていました。そこに歩道橋をかけると、川の向こう側への行き来がかんたんになるので、とても便利です。
そこでわたしの会社に、歩道橋を設計してほしいという依頼(いらい)がありました。

橋をかける前の川のようす。正面に見えているのは、鉄道用の橋で、人は通れない。 橋をかける前の川のようす。正面に見えているのは、鉄道用の橋で、人は通れない。
 

② 社内でチームを組む

依頼を受けると、さっそく社内でチームをつくります。先ほど言ったように、地面のかたさや強さを調べる人や、川岸を保護(ほご)する方法を考える人、工事の費用を計算する人など、社内のいろいろな部署(ぶしょ)から専門家たちを集めたチームです。このときのメンバーは、わたしを含めて10名ぐらいでした。

③ 現地調査(げんちちょうさ)に行く

メンバーはそれぞれ、自分が担当する仕事にとりかかります。わたしはまず、現場に行って、どこに歩道橋をかけるのか確認(かくにん)しました。そして周囲を見回しながら、歩道橋が完成したときのことを思い浮かべてみます。
歩道橋の上から何が見えるだろう? 歩道橋に太陽がさえぎられて、暗くなってしまう場所があるかな? 歩道橋と周辺の道路はスムーズにつながりそうかな…? 
現場でチェックすべきポイントはたくさんあります。気づいたことはメモしたり写真にとったりして、あとでデザインの参考にします。何度も現地に足を運んで、こういう調査をくり返しました。

橋をかける前の現場のようす。いろいろな場所や角度から、たくさん写真をとっておく。
橋をかける前の現場のようす。いろいろな場所や角度から、たくさん写真をとっておく。
 

④ デザインを考える

橋は基本的(きほんてき)な形やつくり方がいくつか決まっています。
みなさんも「つり橋(ばし)」とか「アーチ橋(きょう)」とか、聞いたことがあるでしょう? 
チームのメンバーが調査したデータや情報(じょうほう)から、その場所に合う橋の基本の形を選びます。「竜閑さくら橋」の場合は、「箱桁橋(はこげたきょう)」という形がピッタリでした。その上で、クライアント(仕事の依頼をしてきたところ)がどんな歩道橋にしたいと思っているのかをくわしく聞きながら、デザインを考えていきます。

橋が箱(はこ)のような形をしているのが「箱桁橋」。いろいろな形を作って、一番よいものに決めていく。 橋が箱(はこ)のような形をしているのが「箱桁橋」。いろいろな形を作って、一番よいものに決めていく。
 

⑤ 模型(もけい)をつくる

だいたいのデザインが固まってきたら、模型をつくります。設計図では問題ないと思っていても、実さいに模型にしてみると「ここはもっと工夫できるかな」と気づいたりするので、とても大事な作業です。
歩道橋が完成したときの様子をイメージしやすいように、樹木(じゅもく)や人をおいたジオラマもつくりました。模型を見ながら、チームのメンバーやクライアントと意見をこうかんしあったり、アドバイスをうけたりしながら、よりよいものになるように修正(しゅうせい)していきます。こうして、たくさんの人の力で設計ができあがっていきます。

「竜閑さくら橋」のジオラマ。これは完成形ではなく、さらに修正をしたそうだ。 「竜閑さくら橋」のジオラマ。これは完成形ではなく、さらに修正をしたそうだ。
 

⑥ 設計図の完成

クライアントが納得(なっとく)する設計が完成したら、設計図や必要な書類をまとめて提出(ていしゅつ)します。「竜閑さくら橋」の場合は、仕事の依頼を受けてから設計図を提出するまで、2~3年かかりました。

工事中も現場にいって、川から橋を確認した。 工事中も現場にいって、川から橋を確認した。

このあとは工事を担当するゼネコン(総合建設会社)が、設計図通りに歩道橋をつくっていきます。

ですが、建設コンサルタントの仕事はここで終わりではありません。
工事がはじまったら、設計図通りにできているか確認します。もし現場で何か問題がおきたら、みんなで解決する方法を考えて、工事がスムーズにすすむようにします。

 

このように、建設コンサルタントにはさまざまな仕事や役わりがあります。

完成した「竜閑さくら橋」。歩道橋の上をよこぎっているのは首都高速道路(しゅとこうそくどうろ)。 完成した「竜閑さくら橋」。歩道橋の上をよこぎっているのは首都高速道路(しゅとこうそくどうろ)。
 

つくるものが大きいから、設計図を完成させるだけでも、すごく長い時間がかかるんだね。
次のページでは、太田さんの1日のスケジュールと、仕事のこだわりややりがいを見ていこう。

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