景観(けいかん)デザインのやりがいは?

建設コンサルタントという仕事

景観(けいかん)デザインのやりがいは?

太田さんは毎日、どんなスケジュールで仕事をしているの?

1日中パソコンに向かって仕事をしている日もあれば、ずっと模型(もけい)をつくっている日もあります。
打ち合わせや現地調査(げんちちょうさ)に出かけて、ほとんど会社にいない日もあります。

仕事の内容によってスケジュールはちがうけれど、ある1日の流れはこんな感じでした。

 
9:00 出社。まずメールを開いて、連絡事項(れんらくじこう)を確認(かくにん)。この日、クライアントに模型を見せる約束をしているので、持っていく模型と書類の用意をする。
10:30 クライアントの会社に行って打ち合わせ。模型を見せながら、デザインの説明をする。クライアントから「ここを修正(しゅうせい)してほしい」という指示(しじ)があった。
12:00 会社にもどって昼食。お昼休みは1時間。
13:00 午後の仕事開始。クライアントの指示通りに、模型を手直しする。
15:00 別のクライアントからも橋の設計(せっけい)の依頼(いらい)がきたので、社内で会議。
16:30 模型の手直しの続き。修正できたらデジカメでとって、画像(がぞう)をメールでクライアントに送信。ちゃんと修正できているか確認してもらう。
20:00 帰宅(きたく)。会社の終業時刻(しゅうぎょうじこく)は17時30分だが、この日はいそがしかったので残業(ざんぎょう)した。

わー、やることがたくさんあって、かなりいそがしそう!
太田さんが景観デザインを考えるとき、とくにこだわっていることはありますか?

 

■現場調査(げんばちょうさ)のこだわり

設計図(せっけいず)をかいていると、どうしても現場で確認したいことが出てきます。
「竜閑(りゅうかん)さくら橋」は東京都内だったのでわたしの会社から近く、何度でも気軽に現場に行くことができましたが、地方につくるときはそうもいきません。打ち合わせなどで出張(しゅっちょう)したときを利用して、現地の写真をできるだけたくさんとっておくようにしています。写真でわかりにくいときは、確認のためだけに四国まで行ったこともありました。
できあがったあとで何か不都合(ふつごう)なことが見つかっても、橋をすぐに取りこわすことはできないし、修理(しゅうり)するにもたくさんのお金がかかってしまいます。ですから念には念を入れて、しっかり調査をするようにしています。

わたしたち「建設コンサルタント」が手がけるものは、生活を便利に、ゆたかにするものばかり。でも、もしかしたら、新しい橋ができると、今までの美しい景色がだいなしになってしまうんじゃないかと、不安を感じる人がいるかもしれません。
だから図書館に行ってその土地の歴史を調べたり、地元の人に直接(ちょくせつ)話を聞いたりします。その土地がもつ「記憶(きおく)」のようなものをふまえたデザインにしたいからです。橋のような大きなものをつくるのだから、それが礼儀(れいぎ)ですよね。そういう「現場調査」も大切にしています。

上をよこぎっているのが、1960年代(昭和35~44年)につくられた首都高速道路(しゅとこうそくどうろ)で、太田さんが指をさしているのが大正7年に作られた鉄道アーチ橋(きょう)。そして太田さんが立っている場所が2018年(平成30年)にできた「竜閑さくら橋」。ここでは、大正、昭和、平成と3つの時代の橋を一度に見ることができる。こうした歴史も調べて設計に生かすようにしている。
上をよこぎっているのが、1960年代(昭和35~44年)につくられた首都高速道路(しゅとこうそくどうろ)で、太田さんが指をさしているのが大正7年に作られた鉄道アーチ橋(きょう)。そして太田さんが立っている場所が2018年(平成30年)にできた「竜閑さくら橋」。ここでは、大正、昭和、平成と3つの時代の橋を一度に見ることができる。こうした歴史も調べて設計に生かすようにしている。
 

■デザインへのこだわり

設計を考えるとき、絶対に守らなくてはいけない基準(きじゅん)があります。たとえば、強い地震(じしん)にもたえられる構造(こうぞう)にするように定められています。
費用の問題もあります。橋づくりの費用をはらうのはクライアントですから、むやみにお金がかかるような設計をするわけにはいきません。基準を守りつつ、限られた費用の中でよりよいデザインにするにはどうすればいいか、知恵をしぼります。

「竜閑さくら橋」は江戸時代から日本の中心地だった場所につくるので、その歴史を大事にしたデザインにしようと思いました。たとえば、歩道橋の色といえば水色や緑が多いのですが、ここでは日本の伝統色(でんとうしょく)のひとつ、「銀鼠(ぎんねず)」という銀色のような灰色(はいいろ)を選びました。

また、目の不自由な人のための誘導(ゆうどう)ブロックも、ふつうはハッキリした黄色を使うのですが、ここにはなじまないので、あまり目立たない色にしています。でも、誘導ブロックとしての役割(やくわり)はきちんとはたせるように、目の不自由な人にもわかりやすい、特別な色を作ってもらいました。

ふつうの黄色より、おちついた色にした誘導ブロックと、ガラスばりのエレベーター。
ふつうの黄色より、おちついた色にした誘導ブロックと、ガラスばりのエレベーター。
 

ほかにもエレベーターをガラスばりにして、夜になると内部の照明が周辺を明るく照らすようにしたり、電気の配線がむき出しにならないようにかくしたり、安全のために手すりの角を丸くしたり……。
だれにでも安全に安心して使ってもらえるように、細かいところにいろいろな工夫をしています。

夜のようす
夜のようす
 

こうした細かいデザインや工夫は、言われてみないと気づかないですよね。
でも、それでいいのです。
そこに歩道橋があったからわたる、夜でも明るいからこわくない、手すりによりかかってちょっと周りの風景を見てみようかな、そんなふうにごく自然にくらしの中にとけこむようなデザインをすることが、わたしの一番のこだわりです。
へんな言い方ですが、「きちんとした、ふつう」をつくることを心がけています。

「竜閑さくら橋」の下を流れる川には、観光客を乗せた船が通る。船から橋を見上げたとき、橋のせいで重苦しくならないように、すっきり見えるデザインにしたのも、太田さんのこだわりのひとつ。
「竜閑さくら橋」の下を流れる川には、観光客を乗せた船が通る。船から橋を見上げたとき、橋のせいで重苦しくならないように、すっきり見えるデザインにしたのも、太田さんのこだわりのひとつ。
 

■模型づくりのこだわり

橋の全体がわかるジオラマだけでなく、一部分だけの模型もつくります。
基本となる形をつくったら、少しずつデザインを変えて、ああでもない、こうでもないと、いくつもつくったりするんですよ。よいものにしようと思ったら、きりがありません。模型はクライアントにデザインの説明をするためということもありますが、設計図通りにつくったものが、頭の中で考えた形と同じになるかどうか、自分への答え合わせの意味もあります。

模型はひとりでコツコツつくりますが、他の人にアドバイスをしてもらうことも大事です。
たとえばデザインのひとつとして、橋の近くに樹木(じゅもく)を植えたいと思ったら、社内の造園(ぞうえん:公園や庭をつくること)の専門家に意見を聞きにいきます。
「この土地は地下水の影響(えいきょう)で木がかれやすいよ」「ここにこういう種類の木を植えると、おくゆきが感じられて広く見えるね」など、専門家ならではのアドバイスはとても参考になります。

 
たくさんつくった橋桁(はしげた:橋の通路部分)の模型。それぞれ少しずつ形がちがう。1つつくるのに2~3時間かかるそうだ。
たくさんつくった橋桁(はしげた:橋の通路部分)の模型。それぞれ少しずつ形がちがう。1つつくるのに2~3時間かかるそうだ。
 

建設コンサルタント会社の中には、木の専門家もいるの!? 細かいところまで気を配って設計するんだね。
そういうデザインや設計のアイデアは、どうやって考えつくんですか?

 
取材中も、何か気になるものを見つけると、すぐにカメラを出してパチリ。
取材中も、何か気になるものを見つけると、すぐにカメラを出してパチリ。

町を歩いて、いろんなものを見て回って、デザインを自分の中にインプットします。多摩川(たまがわ)とか隅田川(すみだがわ)とかの川ぞいをずっと歩きながら、橋や建物(たてもの)を見て回るのが好きなんですよ。橋の形だけでなく、さくのうら側をのぞいて、どうやって照明をおさめているのか確認したり、柱のはばを計って、20cmもあるとやっぱりごつい感じがするなとか、この色はへんに目立ってよくないなとか。参考にすることもあれば、「こういうデザインをしちゃダメだな」と反面教師(はんめんきょうし)にすることもあります。

 
太田さんがさまざまな場所でとった写真。この中にデザインのアイデアが!
太田さんがさまざまな場所でとった写真。この中にデザインのアイデアが!

出張先(しゅっちょうさき)でも、会社が休みの日でも、出かけるときはいつもカメラがいっしょ。気になることを見つけたら細かく観察(かんさつ)し、メモをとり、撮影(さつえい)するのが習慣(しゅうかん)になっていますね。仕事のため、というより、そういうことをするのが好きなんだと思います。

 

太田さんから見ると、きっと町のいろんなところにデザインのアイデアがあるんだろうね。 そんな太田さんの、仕事に必要な七つ道具を見せてもらおう!

 

カメラ、メモ帳、カッター、シャーペン2種、色見本、三角スケール、メジャー。 シャーペンは、今の部署(ぶしょ)の人からプレゼントされたもので、もう15年ぐらい使っています。メモ帳には思いついたアイデアをスケッチしておくこともあります。

 

景観デザインという仕事のことが、だんだんわかってきたね。
次のページでは、太田さんがこの仕事につくまでの道のりを聞いてみたよ。

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