環境調査(かんきょう)の仕事につくまでの道のり

建設コンサルタントという仕事

環境調査(かんきょう)の仕事につくまでの道のり

中坪さんは、川で調査をしていた「水生昆虫類(すいせいこんちゅうるい)」の専門家なんですか?

 

環境部(かんきょうぶ)にいるとさまざまな調査を行ないますが、ぼくの本当の専門は「地球温暖化(ちきゅうおんだんか)」です。大学では森林がもつ地球温暖化をふせぐ効果(こうか)について研究していました。

温暖化の原因(げんいん)は、空気中に二酸化炭素(にさんかたんそ)がふえたからだと考えられています。木などの植物には、その二酸化炭素を吸収(きゅうしゅう)してくれる働きがあることは、みなさんも知っていますよね。たとえば何かをつくるために工事をすると、二酸化炭素がたくさん出てきます。その二酸化炭素をなくすためにはどれぐらいの木を植えればいいのかな、というようなことを考えるわけです。

うわー、むずかしそう…。でも、どうしてそういう研究をしようと思ったのかな? 
子どものころから環境を守りたいと思っていたのですか?

 

環境を守りたいというより、自然(しぜん)が大好きな子どもでした。
ぼくは長野県(ながのけん)上伊那郡(かみいなぐん)の出身で、ゆたかな自然に囲まれて育ったんです。水生昆虫類の調査で採取した「ヘビトンボ」などの幼虫(ようちゅう)を「ザザ虫」とよんでいて、佃煮(つくだに)にして食べていた地域(ちいき)です(笑)。

だから昆虫についてもかなりくわしいんですよ。子どものころは山でカブトムシをとったり、木のぼりをしたり、ひみつ基地(きち)をつくったりと、ずっと外で遊んでいました。友だちもみんな同じだったと思います。

家でネコやイヌをかっていたので、動物も大好きでした。小学生のときから、将来(しょうらい)は獣医(じゅうい)さんになりたいと思っていましたね。

でも、あまりにも動物が好きだから、ケガや病気で苦しんでいたり、絶滅(ぜつめつ)の危機(きき)にさらされたりしている動物をテレビなどで見ると、自分のことのようにつらくて、すぐに泣いてしまうんです。これでは獣医になっても、冷静な診断(しんだん)はできないでしょう? 同じ理由で、動物園の飼育員(しいくいん)もきっとつとまらないだろうなと思いました。

大学生のとき、シベリアへ環境調査に行った。これは、タワーの頂上(ちょうじょう)からとった写真。シベリアの広大な森林が広がっている。大学生のとき、シベリアへ環境調査に行った。これは、タワーの頂上(ちょうじょう)からとった写真。シベリアの広大な森林が広がっている。

それでも自然とふれあう仕事につきたかったので、野生動物を保護(ほご)する活動ができればいいなと思ったんです。そのためには、まず動物たちがくらす場所を守ってあげなくてはいけません。

そこから環境保護に興味(きょうみ)をもち、大学は農学部(のうがくぶ)の生物環境科学科(せいぶつかんきょうかがっか)に進みました。

 
シベリアの森の中に設置された観測タワー。タワーの高さは約35m。上までのぼって、二酸化炭素などを計測する。 シベリアの森の中に設置された観測タワー。タワーの高さは約35m。上までのぼって、二酸化炭素などを計測する。

でも、大学で環境について学ぶうちに、野生動物や自然を保護するのは、思っていた以上にむずかしいことがわかってきたんです。

そのことを強く感じたのは、ロシアのシベリアで環境調査を行ったときでした。大学4年から大学院2年までの3年間で、5回ぐらい行ったでしょうか。

シベリアの永久凍土帯(えいきゅうとうどたい:一年中、土がこおりついている場所のこと)には広大な森林が広がっています。その森林が、どれぐらいの二酸化炭素を吸収

しているのかを調べるのが目的です。

同じ場所で毎回、1カ月くらい観測(かんそく)するのですが、その現場(げんば)に行くまでが大変なんです。

まず日本から、韓国(かんこく)かロシアの東側にある町に行って、そこから飛行機を2回ぐらい乗りついで、さらに船で丸1日かけて川を上って……という感じ。
シベリアは広大で、鉄道や道路もほとんど通っていません。現地に着くまで4日から1週間もかかりました。

シベリアの環境調査のようす。ボートで移動することもあった。 シベリアの環境調査のようす。ボートで移動することもあった。

地球温暖化がシベリアの森林にも悪い影響(えいきょう)をあたえているのではないか、と心配されているので、きちんとした調査を続けなくてはいけないのですが、だれもがかんたんに行けるようなところではないのです。

これはシベリアだけの話ではなく、日本でも同じです。
保護を必要とする野生動物がいるのは、山おくなどの人が少ない地域。このままでは絶滅してしまうかもしれないと思っても、もともと人が少ない地域ですから、なかなか環境保護にまで手が回らないのです。

現地調査に行くたびに、そんな例をたくさん見てきたぼくは、まずその地域を、人がたくさんくらせるように整備(せいび)する必要があるなと思いました。人がふえて地域が活気づけば、自然を保護しようというよゆうも生まれます。

でも、だからといって、道路をつくって新しい建物(たてもの)をどんどんたてればいいかというと、それもちがいますよね。それで、自然を守りつつ、人々が便利にくらせるような、環境にやさしい町づくりがしたいなと考えるようになりました。

人にも自然にもやさしい町づくりの例。上の写真は工事前、下が工事の後4年ほどたったようす。細かった川のはばを広げて、浅瀬(あさせ)や淵(ふち:ほかより底が深い場所)などをつくり、さまざまな生き物がくらせる変化にとんだ川の環境をつくった。同時に、川の流れをゆるやかにして、人にとって安全で親しみやすい川となるように工夫した。  写真提供:建設技術研究所 人にも自然にもやさしい町づくりの例。上の写真は工事前、下が工事の後4年ほどたったようす。細かった川のはばを広げて、浅瀬(あさせ)や淵(ふち:ほかより底が深い場所)などをつくり、さまざまな生き物がくらせる変化にとんだ川の環境をつくった。同時に、川の流れをゆるやかにして、人にとって安全で親しみやすい川となるように工夫した。  写真提供:建設技術研究所

就職先(しゅうしょくさき)は最初、環境のことを考える部署(ぶしょ)がある国や市町村などの役所を考えました。でもいろいろ調べていくうちに「建設コンサルタント会社」の中に環境調査という仕事があることがわかりました。そこで今の会社に就職したんです。

実さいに環境調査の仕事をするようになって、一番おどろいたのが、「環境」というもののはば広さ。町中のそう音とか、大気汚染(たいきおせん:空気がよごれること)、建物にさえぎられて太陽の光が当たらなくなってしまうといった日照(にっしょう)問題、電波がさえぎられてテレビなどがうつらなくなってしまう電波障害(でんぱしょうがい)など、いわゆる「生活環境」にもたくさん問題があるということでした。

会社に入ってから急に物の見方や考え方が広がったような感じで、学ぶことが多く、とても楽しいです。
ただ自然を守ろう、という単純(たんじゅん)な話ではなく、その土地を便利で安全にくらせるように開発する側の立場にも立って、地球にも人にもやさしい社会づくりをしていきたいと思っています。

 

会社に入ってからも、学ぶことが多いんだね。
次のページでは、中坪さんのような仕事につくためにはどうすればいいか、教えてもらおう!

 
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