海外での仕事のやりがいは?

建設コンサルタントという仕事

海外での仕事のやりがいは?

海外で仕事をするのってあこがれるね。藤冨さんは、バングラデシュ以外の国でも働いたことがありますか?

わたしの会社は海外での仕事がとても多いんです。短期間の海外出張(かいがいしゅっちょう)もよくあります。カンボジアやアフガニスタン、アフリカ南部のエスワティニなど、いろいろな国に行きました。

2004年にインドネシアのアチェというところが、地震(じしん)による津波(つなみ)で大きな被害(ひがい)を受けたのは知っていますか? 多くの国が復興(ふっこう)に協力し、わたしの会社もそのお手伝いをしました。それ以来、わたしはインドネシアで仕事をする機会が増(ふ)え、2009年からは家族といっしょに引っ越(こ)して、2011年まで現地(げんち)にいたんですよ。今回のバングラデシュはもっと長期滞在(ちょうきたいざい)になるのですが、やはり家族といっしょに来ています。

建設コンサルタント会社は「暮(く)らしの土台」をつくるのが仕事だから、地震や津波などの自然災害(しぜんさいがい)でこわれた土台を元にもどしたり、つくり直すのは得意。だから海外でも、災害復興の仕事をしているんだね。

言葉や文化のちがい

藤冨さんはいろんな国で仕事をしてきたようだけれど、言葉の問題もあるし、日本とは習慣(しゅうかん)もちがうから、大変なことが多いんじゃないかな。藤冨さんに海外で働く苦労や、やりがいなど、いろいろ教えてもらったよ。

海外で仕事をする場合、会話はたいてい英語です。ここバングラデシュの公用語は「ベンガル語」ですが、みんな英語もとても上手。コミュニケーションをとるのに困(こま)ったことはありません。それにバングラデシュの人たちは、日本に対してとても良いイメージを持ってくれています。ですから、仕事はやりやすいですね。

ダッカの本部事務所(ほんぶじむしょ)にいるエンジニアチーム。5~6カ国から集まっている。 ダッカの本部事務所(ほんぶじむしょ)にいるエンジニアチーム。5~6カ国から集まっている。

ただ、日本人と比(くら)べると、仕事の期限(きげん)を守るという意識(いしき)が少しうすいところがあります。もっと作業をスピードアップしてくれないかな、とか、ちょっとだけ残業してほしいな、と思うこともしばしば。でもこういうことは、バングラデシュに限(かぎ)らず、外国ではよく感じることなんですよ。いちいちイラついていたら、海外では働けません。日本人が時間や期限にきびしすぎるのかもしれませんね(笑)。そこでイライラするより、かれらのやる気を引き出す方法を考えて、自分から「もっとスピードアップしよう!」「今日は仕事が残っているから残業しよう!」と思ってもらえるようにするのもわたしの役目です。

それからその国の宗教(しゅうきょう)のことも、よく理解(りかい)していないといけません。バングラデシュ人はほとんどがイスラム教徒。毎年「ラマダン」というイスラム教の行事があって、その期間中は夜明けから日が暮れるまで何も食べたり飲んだりしない断食(だんじき)をします。ですからその間は、どうしても仕事のペースがおそくなりがち。でも、イスラム教徒にとってはとても神聖(しんせい)で大切な行事ですから、尊重(そんちょう)しています。

気をつけていること

わたしたち日本人には100点満点のアイデアだと思って提案(ていあん)しても、バングラデシュの人たちがなぜか賛成(さんせい)してくれない、ということがよくあります。最初のころはその理由がわからなくて、とてもなやみました。でも、習慣や文化のちがいなどがえいきょうしているのかもしれないし、かれらにはかれらなりに賛成できない理由があるわけです。そこをきちんと理解してから物事を進めないと、かれらの気分を悪くしてしまいます。こういうときは、おたがいに納得(なっとく)がいくまできちんと話し合うようにしています。

また、バングラデシュは上下関係がとてもきびしい国です。特に施主(せしゅ)は政府(せいふ)の役人たちですから、とても気を使います。たとえば何かの許可(きょか)がほしいとき、いきなり一番えらい人に話を持っていったりすると、その下の人たちが「自分のことを無視した」とヘソを曲げてしまうんです。ちゃんと順番にしたがって許可をとっていかなくてはいけません。そういうのはちょっと大変ですね(笑)。でも、こういうこともその国の文化ととらえて尊重するようにしています。

一番うれしかったこと

そんなたいへんな思いをしても、こちらの誠意(せいい)が相手に伝わったときはとてもうれしいです。

これはインドネシアのジャカルタで、鉄道をつくったときの話です。どこに駅をつくるかというのは、現地の人にとっては大きな問題。けっこうもめるんですよ。最初の計画ではA地点の地下に駅をつくると決めていたのですが、いろいろな調査を進めていくうちに、そこは洪水(こうずい)の被害を受けやすいことがわかりました。洪水の対策(たいさく)をすることはできるけれど、いざというとき、駅員さんが的確(てきかく)に行動しなくては効果(こうか)がありません。人にすべてをまかせてしまうのはやっぱり危険ですから、駅の位置をB地点にしたほうが安全だと提案しました。B地点なら洪水の被害を受けにくいのですが、ただ、A地点につくるときよりお金がかかるという問題があったんです。

そのことを施主に説明すると、最初は相手にもしてくれません。余分(よぶん)なお金をかけず、駅員にまかせれば良い、という考えです。でも利用者の命にかかわることですから、時間をかけて一生けんめいに説得しました。最後にはこちらの熱意におされるようにして、B地点に動かす許可を出してくれました。そこにいたるまですごく大変だったんですけれど、こちらの説明をわかってくれたときは、非常(ひじょう)にうれしかったですね。

現地事務所での説明会。この事業に援助(えんじょ)をしている日本の政府やJICA(ジャイカ:開発と上国に協力する日本の機関)の人たちが現場を見に来たので、工事のしかたを説明している。 現地事務所での説明会。この事業に援助(えんじょ)をしている日本の政府やJICA(ジャイカ:開発と上国に協力する日本の機関)の人たちが現場を見に来たので、工事のしかたを説明している。

海外での仕事のおもしろさ、みりょく

日本の場合、鉄道のような大きなものをつくるとき、事業の全体をわかっているのは施主です。わたしたちエンジニアは、そのなかの一部分を担当(たんとう)するにすぎません。でも、海外では、「この鉄道を丸ごとつくってください」という感じ。計画の段階(だんかい)で駅をどこにいくつつくるか、というところから始まって、できあがって開業するまでをわたしたちがサポートします。仕事のきぼの大きさや、かかわり方の深さがまったくちがうんです。すべてにおいて最初から最後までかかわることができるので、非常にやりがいを感じますね。

今回のバングラデシュの鉄道事業は、まだ線路もなにもない現地に行って、「ここにこういうふうに線路をのばして、こういう形の駅をつくって…」と、自分の頭の中でイメージをふくらませ、想像力(そうぞうりょく)を働かせることから始まりました。わたしたちの仕事の一番ワクワクするときです。

やりがいを感じるしゅん間

ここで働いている人はみんな同じだと思うのですが、鉄道事業でもっともやりがいを感じるのは、鉄道が開業して、一番列車を見送るとき。それが見たいがために、今、ふんとうしているのだと思います。

工事のようす。予定地に高架(こうか:高いところにかけられた橋のようなもの)がつくられ、線路がつくられていく。 工事のようす。予定地に高架(こうか:高いところにかけられた橋のようなもの)がつくられ、線路がつくられていく。

こんなにきぼの大きい仕事につく人って、どんな勉強をしてきたのか気になるよね。次のページで教えてもらおう!

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